ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

あなたは “脳組”? それとも “肝組”? (上)

2015-12-18 19:08:58 | 病状
 アルコール依存症には、“酒乱型” と “寝型”  といった酔ったときの行動による分類、“連続飲酒” や間歇的な “山型飲酒” といった飲酒パターンによる分類などがあります。今回取り上げるのは体質で分ける分類、“脳組” と
“肝組” についてです。百薬の長と言われるお酒の本当の姿、毒性の話でもあります。

 アルコール依存症者には、酔ったときの行動のタイプで大きく2通りあるといわれています。酒乱型タイプと寝型タイプの二つです。酒乱型タイプは行動がハデなため目立ちやすく、アル中の典型と考えられがちですが、少数派だそうです。一方の寝型タイプは騒ぎを起こすこともなく、ただひたすら飲み続け、その内に寝てしまうのが特徴で、圧倒的多数派だとされています。騒ぎを起こさないだけに周りから見落とされがちなので、相当進行した病状になって初めて医療機関のお世話になるケースが多いといいます。

 相当進行したとは、肝硬変とか大腿骨骨頭壊死など非可逆的な病状になってしまうことですが、大脳前頭葉の委縮やアルコール性認知症もその最たるものでしょう。このような実態はあまりよく知られていないと思います。

 先日、久々に専門医師の講演を聴く機会がありました。その中で出て来たのが表題の “あなたは脳組? それとも肝組?” でした。長年にわたる飲酒習慣から、障害の出やすい臓器別に分類するアルコール依存症者の分け方だそうです。肝機能の強弱が分類上の要で、早い話が体質の問題だというのです。

 体質上の問題とは、アルコールの解毒(代謝)過程で生成されるアセトアルデヒドの処理能力に個人差があることです。アルコールは、肝臓でアルコール→アセトアルデヒド→酢酸の順に代謝され、最終的には二酸化炭素と水に分解されます。中間代謝物のアセトアルデヒドが曲者で、アルコール本体よりも毒性が強く、発がん性も確認されています。お酒を飲むとすぐ顔が真っ赤(フラッシング)になるヒトがいます。その一方で、かなりお酒を飲んでも平気なヒトもいます。フラッシングや悪酔い・二日酔いの原因物質がアセトアルデヒドです。アセトアルデヒドを代謝する肝臓の機能が弱いか強いか、その体質の違いが個人差となって端的に顔に出ることになります。

 アセトアルデヒドの代謝酵素はアルデヒド脱水素酵素2型(ALDH2)といい、遺伝形質として個人差が大きい3つのタイプが知られています。活性型(NN)、低活性型(ND)、不活性型(DD)がそれで、NNタイプのヒトは飲めるタイプ、NDタイプのヒトは酒に弱いタイプ、DDタイプは全く飲めないタイプだといいます。日本人ではそれぞれが54~56%、38~40%、4~8%ずつ占めているそうで、日本人の約半数がお酒に弱いか飲めないタイプということなります。言い換えれば、お酒を飲むと約半数の日本人が、毒性の強いアセトアルデヒドに長時間曝されることを意味します。その毒性をもろに受けるのが肝臓というわけです。

 お察しのように、“肝組” とは、アセトアルデヒドを代謝する肝臓の機能が弱い体質のヒトのことを言います。“肝組” のヒトたちが習慣的飲酒の結果どうなるか? 初めは脂肪肝から始まり、その後アルコール性肝炎から肝硬変へと辿ることになるそうです。これが “肝組” のアルコール依存症者の末路です。

 もう一方のNNタイプの “脳組” は、お酒を相当の量飲んでも肝臓が毒されることから免れやすい人々です。たとえ肝障害があったとしても比較的軽い状態のまま、より長期間にわたり、より大量にお酒が飲めることになります。どうやらその行き着く先は大脳前頭葉の委縮やアルコール性認知症だと考えてよさそうです。

 アルコール性認知症では、物忘れなどの記憶障害、周りの状況が理解出来なくなる見当識障害などが起こりやすいといいます。ついさっきの事も思い出せず、今何時か(?)とか、ここがどこか(?)など分からなくなることです。また作話なども記憶障害から起こるといいます。まさに廃人へ一直線という怖い話になります。これがもう一方の “脳組” のアルコール依存症者の末路というわけです。

 “肝組” にとってのアルコール問題の黒幕とは、アルコールの中間代謝物で強毒性のアセトアルデヒドの代謝酵素に遺伝多形があることでした。それでは、飲めるNNタイプの “脳組” にとって、アルコール問題の黒幕とは何なのでしょう?ちょっと長くなりますがその解説文を引用します。


 アルコールを代謝するときに、大量のビタミンB群が消費されます。その中でも、最も不足しやすいのがビタミンB1。・・・アルコールを飲むことで、大量のビタミンB1を消費した上、アルコールがビタミンB1の体内への吸収を妨げてしまうため、ビタミンB1が不足してしまうのです。重度のアルコール依存者は、ほとんどB1欠乏状態にあるといわれます。
 ビタミンB1の主な働きは、糖質を分解し、エネルギーに変えることです。また、神経のビタミンとしても知られ、脳の働きを活発にして、精神を安定させる働きも持っています。さらに、疲労物質である乳酸の分解を促進して、疲労回復をはかる大切な栄養分でもあります。
 アルコールに関して言えば、アルコールを飲むことによってできる有害物質、アセトアルデヒドを、肝細胞の酵素と協働して、酢酸に変え、体外に排出する働きがあります。
 1日の所要量は、成人男性で1.1mg、成人女性0.8mgです。食品で言うと、トンカツ約1人前、うなぎのかば焼約2串分くらいです。
 ビタミンB1が不足すると、糖分をエネルギーに変えることができなくなります。糖質が分解できないと、血液中に乳酸やピルビン酸などの疲労物質が溜まります。乳酸が溜まると、疲労感が取れず、疲れやすくなってしまいます。
 また、ピルビン酸が多量に蓄積してしまうと、神経炎を起こします。その中でも恐ろしいのが脳の脚気とも言われる脳脊髄変質症(脳症)です。これにアルコールによる中枢麻痺が加わると、ウェルニッケ脳症が起こります。ウェルニッケ脳症とは、眼球運動の障害、全身運動の失調、睡眠異常、さらに幻覚や虚言症などで錯乱し、精神的異常をきたす病気です。
(以上、「カラダカラ」より引用)

 お分かりのように、どうやらアルコールの直接作用というよりも、アルコール代謝に絡むビタミンB1の欠乏が “脳組” にとっての黒幕のようです。ついでに、ここに出て来たウェルニッケ脳症について、もう少し詳しく説明してもらうことにします。

 ウェルニッケ脳症はビタミンB1の欠乏によっておこる病態で、軽度から昏睡までさまざまな程度の意識障害、眼球運動障害、小脳失調を特徴とします。眼球運動障害は眼球が全く動かないのが典型的ですが、細かい眼の振るえ(眼振)も含みます。小脳失調とは小脳の働きが悪くなって立ったり座ったりしたときに体がふらついて倒れてしまったり、手足を思う通りに動かせなくなる症状のことです。
 ウェルニッケ脳症には、健忘を特徴とするコルサコフ症候群(健忘症候群)が後遺症として残ることがあります。ウェルニッケ脳症とその後遺症であるコルサコフ症候群のことをウェルニッケ・コルサコフ症候群と呼びます。重症の場合には記憶力以外の認知機能が低下して認知症と診断されるケースもあります。
(以上、「e-ヘルスネット」より引用)

 というわけで、ビタミンB1の欠乏にアルコールによる記憶障害が加わって、アルコール性認知症と診断されるケースもあるわけですね。飲酒がビタミンB1欠乏を招き、最悪の場合、認知症にまで行き着く。これでビタミンB1の欠乏が飲酒に伴う重大な問題だということが分かります。上述の解説で述べられている重要なポイントは次の3点だと思います。

 ○アルコールを代謝するときに、大量のビタミンB1が消費される
 ○アルコールの大量摂取が消化管から体内へのビタミンB1の吸収を妨げる
 ○ビタミンB1が不足すると、エネルギー代謝の乱れから神経細胞にも障害
  を来す


 これらの中で意外に知られていないと思うのは、アルコールを大量摂取しているとビタミンB1が体内へ吸収されないことです。大量飲酒が連続している状態では、あまり食べ物を摂らないばかりか、消化管の消化吸収機能も損なわれてしまいます。そのために経口的にビタミンB1を吸収することが出来なくなっているのです。もはやサプリメントなどで補おうとしても無意味で、補充するには点滴静注しかないということなのです。これは衝撃的でした。アルコール依存症専門クリニックに初めて受診した時、私が教わったのはビタミンB1について重要なこの3点でした。 全く知らなかったことだけに、まさに “目からウロコ” でした。


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2 コメント

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Unknown (のん子)
2015-12-19 14:43:01
私はお酒は飲まないので、知らないことばかりでした。
お酒を飲む人は美味しいから飲むんでしょうね?

私は甘い物が好きなので、中性脂肪とか糖尿に要注意なのです。
だから少量を、ゆっくり味わってと言う食べ方ですが、依存症となると自分の意思では難しいのでしょうね?

でもいろいろ調べられてスゴイですね。
頑張って下さいね!
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オアズケは辛いものです (ヒゲジイ)
2015-12-19 15:53:18
のん子さん、コメントありがとうございます。
依存症は、一生飲んではいけない病気です。
一杯が元の木阿弥となります。

断酒を始めると、すぐ甘いものが欲しくなるんですよ。
不思議なことですが、アル中の皆がもれなく甘党になります。
糖尿病があると辛いですね。
私も糖尿病もあり、ガマンゴッコを続けています。
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